沖依君は、体を少し離すと、にっこりと笑った。


優しい眼差しに見つめられた私は、パッと逸らすようにして顔を俯ける。



「沖依君、あの……ありがとう…。だけど私は……匠先輩のことが…好きだから…」


“好き”


誰よりも好きなの…。



「そりゃそうですよね…、でも、今すぐに……なんて思ってませんから、俺。」

沖依君は私の耳へと顔を近付けた。




「相沢先輩のこと…考える隙もないくらいにさせますから…。七瀬先輩の心、振り向かせてみせます…。」


沖依君は、散らばっていた私のノートやテキストをサッと拾ってくれた。


そして私に手渡すと、にこやかに手を振りながら帰って行ってしまった。