期待に胸をおどらせて過ごす時間は、経過も速くて。すぐに氷室君は帰ってくる。


 どれ程待ったのだろうかと時計を見るも、いつから待っていたのかが分からない。


 自分の席で待っていたあたしは、すぐに彼のもとへ向かう、が。



「氷室く…っ」


「これ。親戚のフランス土産、余ったから」



 この台詞を聞いて、拍子が抜けてしまったあたしは、何も言えなくなってしまった。


 まさか、それだけのために、待ってろなんて。


 一緒に帰るだなんて、本当に自惚れもいいところで。


 やはり絶対零度だ、さっきのは気のせいだった。


 悪びれる様子などない彼は、あたしの思考などつゆも知らなかったのだろう。


 勝手なあたしの思い込みだった。とにかくそう自分をなだめるけれど、どうにも処理できない悲しさ。



「……じゃ」



 鞄の取っ手を掴み、彼はいつも通り帰っていく。


 そのそっけない後ろ姿を、あたしはただ見つめることしかできなかった。