「ちょっと終わるまで待ってろ」



 唐突に氷室君は、そう言った。


 待ってろ。それが何を意味するのか、考えるだけであたしは、打ち消したはずの期待をまた持ってしまう。



「……へ?」



 顔を上げれば、いつもの万年氷…むしろ絶対零度という方が合っているような、そのオーラとは、違っているように見えた。なぜか、何となく温かい。



「多分すぐ終わるから」



 これは、つまり一緒に帰ると、解釈してもいいのだろうか。


 ……自惚れて、いいのかな。


 氷室君も、あたしのことを、想ってくれてるだなんて。


 そんなことを考えたそばから、顔の辺りが少し熱っぽくなって。


 何となくの恥ずかしさに、誰も見ていないというのに、あたしは再度俯く。


 落ち込んでいるのではなく。これは、喜びのあまり。


 それには声をかけず、氷室君は荷物は持たずに教室から去っていった。