【完】冷徹仮面王子と姫。

「一香、王子というものがありながら浮気?」



 冗談めかして言うあーちゃんにあたしは笑って返す。



「違うよぉ」



 立ち上がってから机に入れた椅子を引き出し、あたしは自分の身をその椅子に預けた。


 知らない人だと、話すだけで緊張してしまう。割と人見知りなのだ。



「何だったの?」


「あー、放課後用があるとか何とか」



 どうしたんだろうね、と付け加えてから気づく。いや、見間違いかも知れない。あーちゃんの表情が、その一瞬、凍った気がした。


 だけど、一度瞬きをすれば、そこにあったのはいつものあーちゃん。気のせいだと、言い聞かせてそれからは疑わない。


 この時まで。



「……そう。まぁ今回はあの子達じゃないから大丈夫よね」



 ギャルさんたちの事を言っているのだと、すぐに分かった。視線を落として、それは零すように呟いたあーちゃん。


 あたしのことなのに、何故かあーちゃんの方が、大丈夫でない気がする。