【完】冷徹仮面王子と姫。

 そうしてこのにやけ顔を教室に晒していると、後ろから声が掛かる。



「……なぁ及川っ」



 教室に溢れ返る声の一つだから、違和感は感じなかった。


 だけどあたしに普段話しかける声じゃなかったから、自分が呼ばれたと自覚するのにほんの少し時間がかかった。


 そうして何より、まさかこの顔について、何か突っ込まれるのではないだろうか…いや、流石にそれはないか、いくら気になっても口にはするまい。


 振り返った先にいたのは、瀬能 拓海(セノ タクミ)君。何だろう、今まで一度も話したことがない気がする。


 手招きしている辺り、彼からここに来るつもりは一切無さそうだから、あたしはあーちゃんを残し、自分の席から離れる。



「放課後少し用あるから、教室で待ってて欲しいんだけど」


「……はぁ」



 困ったような表情で言う瀬能君に、あたしは曖昧に頷いた。


 果てさて、あたしは彼に何かしたのだろうか。もしかしたらどこかで足を踏むくらいのことはしてしまったのかもしれない。


 しかしそんなことがあったところで、これには関係ないだろう。では、この呼び出しの理由とは。