【完】冷徹仮面王子と姫。

 保健室によくある、丸椅子に座ってあたしは、氷室君と向き合う。


 ……違う、向き合うまいとするあたしに、彼から向き合った。



「話せる、か?」



 普段なら考えられない程の、優しい声。無理強いはせずに、それでいて引き出そうと。


 思わず面を上げてしまいそうな、そんな声だった。


 甘えてしまいそうになる。ほんの時々見せる、優しさ。三大珍味より希少な、笑顔。冷たさの裏に隠されていても、味わってしまった。


 頼りたい、甘えたい。


 そう思っても、あたしの口から実際に出た言葉は。



「腕、痛いな……」



 意識しているのか否か、自分でも分からない。


 話を逸らそうとしていることは、後から振り返って気づくような。



「ん?」



「ごめんけど、保冷剤取ってもらえるかな」



 単純に痛みを訴えたあたしに、一体彼がどう出るか。あたしには予測もできない。