【完】冷徹仮面王子と姫。

 今、最も会いたくない人。形容するとしたら、正にこれだった。


 その名も、氷室恭一。



「……あ」



 視線がぶつかり、何やら言い訳しようとする、あたしの口。黙っていれば、何事もなくすれ違えたかもしれないのに。


 それもそれで、悲しいけれど。



「どうした?いつもだったら、とっくに山浦と帰ってる時間だろ」



 正面やや左寄りに捉えた彼の顔は、いつもと変わらなくて。だけど、知っていてくれてたその事実だけで、あたしには十分嬉しい。


 連れてきた安心は計り知れなくて、だけど答える声は震える。



「べ、別に……」


「とりあえず、保健室入るか?…行こうと、してたんだろ?」



 どうして分かったんだろうだとか、そんなことを考える余裕なく、あたしは俯いたまま頷く。


 既にあたしの目は、限界を迎えるまでに潤んでいて。決して見られたくはなかった。


 まさか、何があって原因が誰だったかなんて、言えようものか…。