【完】冷徹仮面王子と姫。

 頭をそのバケツの中へ、無理矢理に突っ込まれる。


 逃げていくばかりの酸素、取り入れるなんて到底不可能。


 意識はどこか遠くて、既に諦めている自分に気付く。



「そこっ!何をやっている!」



 ………救世主が現れた。声は聞き分けられなかったけれど、先生のようだ。


 どうしてこんなところに来たのだろう。武道場裏だなんて、生徒でも滅多に来ないのに。



「やべ……っ」


「逃げよ!」



 ざばっと音を立ててバケツから顔を出す。頭をぶんぶんと振って水気を少し落とし、見た先には、数回臨時で授業を受けただけの、名前も覚えていない先生。


 それでも今は、ただありがたかった。



「及川か?」



 こう質問されても、肺まで侵入した水を追い出そうと咳き込む身体を、どうすることも出来ない。


 よく生徒の名前を覚える先生だとか聞いたな―――なんてことを考えた。


 暫くして、先生は聞く。