【完】冷徹仮面王子と姫。

 とはいえ、これ以上自分勝手なことを言えるはずもなく、あたしはうなづく。


 幸せだった。素敵な時間だった。それでいいじゃない。



「そうだね」



 出入り口付近。入ってくる時にはすごく浮き浮きしていたのに、出るときには淋しくて仕方がない。


 あたしもとことん、矛盾している。


 なんて、今日一日を集約し始めていたあたしに、氷室君は一つ。



「……ちょっとここで待ってろ」



 そう残して、あたしに背を向ける。


 ここで、と言われたのを聞き逃さなかったあたしは、従順な犬のように、ほとんど全く動かない。


 近くにあった木彫りのマッコウクジラと見つめ合ったり、これまた近くにあったクリオネの解説ポスターを見ながら、時間をつぶすよう努める。


 あーちゃんに今日のことをメールで報告しようか、そう迷ったけれど、これもやはり。


 何か、あたしの知らない事情が、あるのかも知れない。と思ってしまえば、行動に移すわけにもいかなくて。