「あ!イルカ!」


「…は?どこに」



 ただの冷水でなく、今回は氷水を浴びたような気分だったが、彼がそう反応するのも無理はない。


 あたしが言ったイルカは、近くの水槽の中にいるのではない。



「可愛い……っ!」



 ショップに並んでいるぬいぐるみ。とりあえず、今回は「どこが」という質問がなかったからよかった。


 勝手に暴走しだしたあたしは、一人でますます幼い子供へと戻っていく。



「……ぬいぐるみかよ」


「うんっ!」



 なるほど、困惑させやがって。心の声が聞こえてきた気がしたが、今は構っていられない。



 本物こそ怖いけど、もふもふしたぬいぐるみになると一瞬でこうも可愛く思えるシャチ。


 巨体で大海原を泳いでいるといわれてもこれを見れば説得力を失ってしまうような鯨。


 ぬいぐるみの威力とはこれほどまでに恐ろしいものなのか……。



 ……と、氷室君は呆れているかもしれない。


 それでもあたしは、ぬいぐるみと戯れ続ける。