ほとんど時間丁度に、氷室君があたしの視界へ現れる。


 数十メートル離れているというのに、いとも簡単に見つけられた。それは、あたしと全く違う意味で、周囲の人が遠ざかっているからで。


 その周囲の人というのの大半は、女の人。ひそひそと彼の方を向いて話している。さすが、の一言。



「氷室君!こっち!」



 そこらで息を潜めている女豹に捕まる前に―――だなんて、一瞬でも思ったことは、悟られてはならない。


 あたしが呼んですぐ、気付いてこちらへ向かってきた。さすれば次に注目を浴びるのは、あたし。


 私服姿も素敵すぎて、意識する前に視線は彼に釘付け。


 これは、あたしを悪者に見るならば、無理矢理あたしが憧れの人にデートを申し込み、付き合わせているようにも映るかも知れない。


 そのくらいの落差が、間にある気がした。


 まさかあたし、変な格好はしていないだろうか。胸元から足元まで、視線を下げてすっと見下ろす。


 精一杯選んできたはずなのに、途端になくなる自信。


 ここまで来てしまったからには、もし変だとしても、今更帰ることは出来ないのだから、心配しても無駄なのだけど。