「ご、ごめんあーちゃん」


「……いいわよ。それだけ嬉しい事があったんでしょ」



 話せないのが申し訳なくて、あたしは小さくうなづくくらいしか出来なかった。



「まぁ、言う気になったら、その時に話してくれたら嬉しいわ」



 あっさりと追求をやめたあーちゃんは、ずいぶんさっぱりとした性格。


 話せないのが、残念でたまらない。


 そこで丁度よくチャイムが鳴り、会話は打ち切られた。


 五時間目の間、相変わらずあたしは、氷室君を見つめていた。いつもに増して、授業の内容は頭に入っていない、古文。



 もしかしたら、ご両親に会うだけ会って、すぐに帰れと言われたりする可能性も。


 というか、ほぼ確実とも言える。


 氷室君の性格だもの。言わないはずがない。


 ……この時あたしは決めた。


 もし彼が、そのようなことを言わなければ、今月から二百円貯金を始めようと。


 そこに何の意味があるのかと聞かれれば、特にない。