「嬉しかった」


 「…ごめん」


 「…だって、料理苦手なんだもん」



 沢山の台詞が、蘇ってくる。


 「どうした?」――何でもないと言っていたのは、もしかしたら強がっていて。


 それでも傍にいた及川に、甘えていたのかもしれない。



 あいつといると、気が緩んで。


 女そのものを遠ざけていたはずなのに、その壁を何ともせず通り抜ける。


 自分が自分でなくなる気がして、怖くて拒絶した。



 それが、原因だとしたら。




 恭一は何も知らない。


 別れの原因も、一課の気持ちも。


 ただゆっくりと、この感情を突き詰めていく。



 最後の最後に聞いた声が涙声だと。


 情けなさに、そっと瞳を閉じた。