―――流し台から聞こえる流水の音。


 ダイニングで、一人の女性が鼻歌を歌いながら食器を洗っている。


 その様子からすると、どうやらまな板に泡が残っていることには気づいていないようだ。


 そしてそこにはもう一人、少年とも青年ともつかないくらいの――



「母さん、泡。残ってる」


「え?…あー!ありがとう恭一。危ない危ない」



 あわててすすぎなおす彼女は、“恭一”の母親らしい。


 ちゃんとしなきゃね、と苦笑を見せた。



「ねぇ、恭一」


「……ん?」



 話しかけられた恭一は、母親に心ここにあらずの返事を返す。


 タイミングが悪くも、別のことを考えていた様子だ。