樹が居るのに、椿が気になって。


どうしたらいいか分からない。

気持ちが上手くコントロールできない。


想いを打ち明けられなくて、素直になれないもどかしさで泣きたくなる。

触れられる距離に居るのに、

柔らかい髪に手が届いて、

触れる手に自ら重ねる事だってできるのに…

そうしないのは、結局、自分が一番可愛いからなんだ。


樹を裏切れない。

悪者になりたくない、汚れた心。



沈黙の席へ、遠慮がちに内勤(ホストの管理役)がやって来て、椿に耳打ちしすぐに去る。


(ご指名…かな?)


思った通り、椿は一瞬、ほんの一瞬だけ心から嫌そうな顔をした。


すぐにホストモードに切り替わったけど。

「姫、ごめん。呼ばれたから、行ってくる。すぐ戻るから、絶対いてね?てか、居ろよ?」

変わりのホストは俺が声かけとくから。

私の返事を聞かずに、椿は席を離れていった。