危険ナ香リ



 モップがけは半端なまま。


 室内の掃除は全くと言っていいほどやっていない。


 ……いや、佐久間先生がやってくれていたようで、ベッドの上の布団が綺麗にたたまれていた。




「また、拉致ですか」

「そうだ」




 ソファーの上に大人しく腰を降ろしたあたしに渡されたのは、いつか見た佐久間先生の携帯電話だった。


 メールの内容を見せられて、あたしは1つ、ため息を零していた。




「……美波先輩の考えてることが、分かりません」

「俺もだ」




 そう言って肩をすくめた佐久間先生を見て“先生の考えも分かりません”と毒づいた。


 どうやら、イトコとゆうのは似るらしい。


 携帯電話をテーブルの上において、目を伏せた。




 ……なんで、今日なんだろう……。




 今日があたしの誕生日だって知っているからなんだろうか。

 ううん。それなら、さっき会った時点で……昼休みに会った時点で、それについて触れてるはず。


 美波先輩は触れなかった。


 柚乃ちゃんも触れなかった。


 ……だから悲しくて、今日はため息ばかりはいていた。




「とりあえず、俺に拉致されろ。じゃなきゃ俺が危ない」

「先生の秘密……。聞いてみたいかも」

「お前……。手足縛って監禁するぞ」




 その言葉に、ズザッと勢いよく身を引いたのは言うまでもない。


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