危険ナ香リ



 その上、女たらしときたもんだ。


 そんな人が、こんな可愛い子をほっとくわけないよね。




 佐久間先生があのことを言わなかった理由なんか、どうでもよくなった。


 ただ、ムッとして唇を尖らせた。


 ……なんでムッとしてるのか、自分でもよく分からないんだけど。




「ところで、保健室に何か用か?」

「いいえ。ただ通りかかっただけです」

「そうか。じゃあ、部活頑張れよ」

「ありがとうございます。じゃあ、さようなら、先生。……清瀬先輩も、さようなら」




 いきなり名前を呼ばれて、すぐに反応できなかった。


 少し遅れてから、え?、と声を出して美咲ちゃんを見る。


 やばいやばい。

 あたし、佐久間先生を睨むことに集中しちゃってたみたい。




「あ、うん。さよなら……」




 うまく笑えなくて、引きつった笑いになってしまった。


 そんなあたしに一礼をしたあと、通り過ぎていく美咲ちゃん。


 その背中を見つめていると、不意に、美咲ちゃんが振り向いた。




「あの。清瀬先輩っ」

「な、なぁに?」




 なにか言いたげに口を開けた美咲ちゃん。


 でも、その後の言葉はなかなか出てこないみたいだ。


 少しすると、諦めたように口を閉じてうつむいていた。




「……すいません。なんでもないです」




 え、ちょ、それ、すごく気になるんですけど。


 なんてことを言えない、弱虫なあたしは、もう一度向けられた背中をジッと見つめた。


 ……なにが、言いたかったんだろう。


.