……佐々木さんだ。
あたしがそう気づいた直後、佐々木さんがこちらに顔を向けた。
それはきっと偶然で……だから、あたしと目が合ったのもきっと偶然。
佐々木さんはちょっとだけ驚いた顔をして、それから笑顔を見せて、あたしに手を振ってみせた。
手を、振り返した方がいいんだろうか。
そう迷った時、佐々木さんがあたしから目を逸らした。
「ゆ、柚乃のドSっ」
「じゃあ祐はドM」
「俺はノーマルだ!」
「いーや。祐は絶対ドMだね。間違いない」
「違うっつーの!」
……結局、昨日の佐々木さんは、なんであたしと会ったんだろう。
それに、どうしてあたしが佐久間先生のことを好きかだなんて聞いたんだろう。
……結局あたしは、佐々木さんの意向が何も分からないまま動いていたわけなのか、と思うと、自分がいかにバカなのか理解した気がして、ため息をはきだした。
そのため息を聞いた所為なのか、柚乃ちゃんと祐の会話がピタリと止まった。
隣で繰り広げられていた激しい言い争いが急に聞こえなくなると、どうしたのかと不安になる。
その不安から、あたしは2人に視線を送ると、
「……ごめんね」
「え?」
柚乃ちゃんが申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。
どうして謝られるんだろう、って不思議に思ったあたしは、小さく首を傾げた。
「祐が大バカ者だから、一向に話が進まなくてごめんね」
「……え」
「バカとはなんだ!ってゆうか、バカの前に“大”の文字つけやがったな!」
「あの」
「別にその通りなんだからいいじゃんかっ!ってか、早く恭子が可愛いかどうか答えなさいよ!」
「えっ」
「だっ、だから、そうゆうのは公衆の面前で言うのは恥ずかしいんだよ!」
また言い争う2人を見て、あたしはこっそりと、そんな話題忘れてたと心の中だけでカミングアウトした。
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