危険ナ香リ



 ……どう答えたらいいんだろう。


 素直に頷くべきなんだろうか。


 ……でもあたしは、佐久間先生のことを忘れてしまいたい。


 噂に惑わされる前に、佐久間先生の噂を、すべて無視してしまいたい。


 もう、これ以上、噂ででもなんででも……自分が傷つくのが嫌だ。




 部活に向かう生徒や下校する生徒の声や足音が混ざりあい、ざわざわと音がする。


 なのにこの図書室だけは静かで……まるで、ここだけ別世界のようだと思った。




「そしてどうか、」




 別世界といっても、すぐそこのドアさえ開ければ、この静かな世界は無くなるだろう。


 それほど脆く、儚い、あたしの空想上にできている、この世界。


 ……逃げ出してしまえればと、そう思うのは、やっぱりこれ以上佐久間先生の話題に触れたくはないからで……。




「あの人を傷つけないであげてください」




―――― それを言いたいのは、あたしの方だ。




 噂に惑わされるんじゃなく、佐久間先生に惑わせられていた。


 変態でロリコンで女たらしな佐久間先生に、こんなに、惑わせられて……傷つけられて。


 なのに、あたしに“あの人を傷つけるな”と、目の前でそう言う佐々木さん。




「純粋無垢なそのままで、あの人の側にいてあげてください」




 そして、あたしにもっと傷つけと、酷いことを言う。




.