外れてる噂なら、1つ知ってる。
美波先輩と佐久間先生が付き合ってるって噂が違うってことなら知ってる。
それを言おうとした直後、ふと疑問を感じた。
……佐々木さんは、佐久間先生のことをどれぐらい知っているの?
佐久間先生にとってはみんな“ただの生徒”なのに、どうして“ただの生徒”でも知らないような、深いところまで知っているような口振りをするのだろう。
いや、実際に知っているんだろう。
“外れてる噂もある”と、そう言い切ったから……きっと、分かっているんだろう。
この人は……佐久間先生のなんなんだろう。
そう思うこの気持ちは、嫉妬なんかじゃなくて、ただ純粋な疑問だった。
「清瀬さん」
「……はい」
「噂って、本当かどうか分からない不確かなものなんですよ」
そんなのわかってる。
わかってる、けど……人は誰でも、噂を信じてしまう。
それはみんながその噂を口にしているから。
大多数の人間がそれを口にしているからこそ、あたし達は間違ったことですら真実だと思い込んでしまうのだろう。
あたしが、美波先輩を佐久間先生の恋人だと、そう思ってしまったように。
「だから間違った噂があるのは当然なんです」
「……はい」
「その間違った噂を否定しても、残念ながら、噂とゆうものは否定しても仕切れません」
「……あの」
今、噂を語るのは間違ってる気が……。
「だからこそ、心を痛める人もいるんですよ」
「あの」
「……清瀬さん」
「は、はい?」
真っ直ぐに見つめられる。
その真っ直ぐさは飛鳥くんのようだけど、どこか違う。
……少し、優しい感じがする。
「貴方は、そんな噂に惑わされないでください」
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