危険ナ香リ



 行きたくはない。


 まだ、佐久間先生に会う心の準備ができていない。


 掃除をサボるのは初めてのことで……不良になっちゃった気がして、心苦しい。


 だけどだけど。




「入らないんですか?」




 考え込んでいる最中に、不意に後ろからそんな言葉をかけられた。


 ビクリと肩を跳ね上がらせ、慌てて振り向く。


 メガネの奥にある瞳が、楽しそうにあたしを見つめていた。




「と、図書委員さん!」

「……僕の名前、知らなかったんでしたっけ」




 あ、そうだ、名前聞かなきゃ。


 なんて、重要なことを思いだしたあたしは、「あ」と声を出した。


 すると図書委員は小さくため息をはく。


 それでも、彼の瞳は楽しげだった。




「佐々木です」

「え?」

「佐々木秀幸(ひでゆき)です」




 佐々木秀幸さん……。


 よし、覚えた!


 これで美波先輩にあたしの将来を心配されずにすむ!




「まあ、こんなところにいるのもなんですし、中に入りませんか?」

「あ、はい」




 ガチャンと図書室の鍵を開けた図書委員……もとい佐々木さんの姿を見て、図書委員っぽいなぁ、なんてバカなことを思った。


 今開いたばかりの図書室に、もちろんのことながら、誰1人としていやしない。


 佐々木さんが暖房をつけている間、寂しい空間の中にいるあたしは……掃除サボって大丈夫だったかなあ、なんて心配していた。




「清瀬さん。ここに座ってください」

「え?あ、は、はい」




 促されて席に座る。


 すでに向かい側に座っていた佐々木さんは、あたしが座ったことを確認した後、すぐに口を開いた。


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