危険ナ香リ



 ……どっ、どうしよう。


 断ろうと思ったのに、これじゃ断れない。


 まだ図書館にいるかな。


 なら、今から探してみようか。




「“図書委員さん”?って、誰?」

「えっと、学校の図書委員の人です」

「名前は?」

「ええっと、名前は」




 ……名前、知らない。


 ピタリと口を止め、しばし固まる。


 な、名前、なんだっけ。


 なんか聞いた覚えがあるような……ないような。


 う、うーん。思い出せない……。




「……名前知らない人と話すなんて……。恭子ちゃんって対誘拐されそうなタイプね」




 な、名前は知らなくても顔は知ってるからいいんだもんっ。


 なんて強がりも、あたしの将来を心配する美波先輩を前にすると、ついついひけ気味になる。


 ……よ、よくない、かもなぁ。


 なんて思うまでになった時、美波先輩の後ろから、柚乃ちゃんがひょっこり顔を出した。




「なになに?なんの話?」

「恭子ちゃんの将来の話よ」




 ……名前、ちゃんと聞いておこう……。


 そう心に決めて、もう一度図書委員が消えた方向にチラリと視線を向ける。


 本棚に囲まれた狭い空間に、図書委員がどちらに曲がったかを知る術はない。




―――― ただ、曲がり角に置いてある本棚に、目立つように置かれたその“本”は、彼が確かにここにいたことを表していた。




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