―――― 新しい年が明けた。






 久しぶりに学校の中に足を踏み入れ、あたしはため息をはいた。


 ……学校が始まる。




「おはよう、恭子」




 教室に着くと、柚乃ちゃんがそう言って笑いかけてきた。


 お正月に会って以来に見る柚乃ちゃんは、髪を切ったのか、ショートヘアになっていた。




「髪、切ったんだね」

「うん。やっぱり気持ちを新たに恋も勉強も張り切っていきたいなと思いまして」




 そう言った柚乃ちゃんの表情は、“恋する女の子”というフレーズがぴったり当てはまるほど、可愛らしかった。


 なんて感じていると、隣から人の気配を感じた。




「柚乃……。邪魔」




 柚乃ちゃんの座っている席を見て、苦い表情を見せたのは、飛鳥くんだった。


 久しぶりに見る飛鳥くんは、どこも変わっていなかった。




「そのセリフ、久しぶりに聞くなぁ」

「……いいから退け」

「あたしに命令するか。このシスコンめが」

「シスコンじゃねぇし」

「美咲ちゃんが美術で賞を取った時に自分のことのように自慢してた奴がよくもそんなことを言えるもんだ」




 睨み合う2人を見つめ、それ程長い間会わなかったわけではないのに、懐かしいなという思いがこみあげてくる。


 せっかく2人で久しぶりに話してるみたいだし、そっとしておこうと思い、外を見る。


 外と言っても、見るのは中庭ではなく……向こうの校舎。




 向こうの校舎には、保健室があった。




 ……保健室を見つめ、小さなため息を吐き出した。




―――― あの日から、佐久間先生と顔を合わせていない。




 会うタイミングがないというか、会う勇気がないというか……。


 せっかく、祐に“逃げるな”と言ってもらったのに、あたしは逃げている。


 と言っても、本気で逃げているわけではなく、ただ本当に会えないだけなんだけど。


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