危険ナ香リ



 確かにあたしは祐にふられて、佐久間先生の家に行って、泣いて。


 それはつい最近起こったことなのに……なんでだろう。


 随分前に起こった出来事のように思える。




 ……そういえば。




 祐にふられた時、あんなに好きだったのに、あたしの中にあった恋心がすぐに消えた。


 それは何故なんだろうか。




『きょ、恭子ちゃんが、敦なんかを好きだなんて……あたし、本当信じられない』




 そんな美波先輩の言葉を、無意識のうちに右から左へ聞き流していた。


 それぐらい、自らの思考に集中していた。




『あ、で、でも、恭子ちゃんが嘘ついてないってことは分かってるのよ?だって、泣きながら嘘つくような子じゃないもんね』

「……」

『でも、なんでだろう。あたし、本当信じられなくて……。だってまさか、恭子ちゃんが敦なんかを……ねぇ』

「……」

『……しかも、敦が恭子ちゃんをふっただなんて……』

「……」

『そうよ。そういえば、あのバカ、なんで恭子ちゃんのことふったのよ。アホじゃないの。つーかアホで十分よ』




 しばらく時間が経ってから、思考の世界から戻ってきた。


 その時には、もう涙は乾いていた。




「ああ、そっか」

『え?』

「あたし、あの時から佐久間先生のこと、好きだったんだ……」




 祐にふられたあの時から。


 ……ううん。




―――― きっと、もっと前から、好きだったんだ。




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