その後、あたしは無言を突き通した。
“付き合ってないってどうゆうことよ”と聞いてこられた時も、無言で答えた。
……もう話すことは何もないと思ったから、口を開かなかった。
ううん。
それ以上に、口を開きたくなかった。
……いつの間にか、本当に泣きそうになっていたから。
「奈々子さん、顔、洗ってきましたけど」
そう言って戻ってきた祐の声が聞こえた。
その声に反応して、そっと、音をたてないように寝返りをうった。
少し音が鳴ってしまったけど構わずに、かぶっている布団を少し持ち上げて、小さな隙間を作る。
その隙間から祐が見えた。
「目、覚めた?」
「はい」
「じゃあそこ座って」
「……なんか怒って」
「座って」
あたしとの会話で、幾分かイライラしてしまったらしいお姉ちゃんの口調は、いつもよりキツかった。
逆らうと雷が落ちると本能的に悟った祐は、素早くお姉ちゃんの目の前に正座する。
「どうして家に?ってか、なんで一緒に寝てるわけ?あんたカノジョいるんじゃないの?」
「……えっと」
「浮気?」
「違いますから!」
「じゃあなに?」
言い辛そうな顔をしながら、チラリとあたしを見る祐。
思わず隙間を閉じると、光が差し込まない空間ができあがった。
「奈々子さん。奈々子さんの部屋で話しませんか?」
祐があたしを気遣ってくれたんだと、すぐに理解した。
このまま話をすると、きっとあたしは傷をえぐられることになるから。
だから、それを避ける為にわざわざお姉ちゃんの部屋で話をしようと言ったんだ。
……素直になれない、ひねくれたあたしでも、その好意は嬉しいと思えた。
祐の優しさを感じて、胸に巣くっていた切ない思いが、少し消えた気がした。
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