「いーなー。あたしも佐久間先生と仲良くなりたいな」

「あ、あの、それは、あたしが具合が悪かった時の話で……」

「じゃあ、懐中時計って、なに?」




 ドキッとして身を固める。


 ……柚乃ちゃん、いったいどこまで喋ったの……?


 以前として困惑を隠せないあたしを見て笑う佐藤さんは、なにを思ったか、制服の胸ポケット辺りを指差した。




「見せてよ」

「え……?」

「あんたが大切にしてる、その時計。内ポケット辺りにでも入ってんでしょ?」




 怖い。


 目の前で笑うこの人が、とても怖い。




 そう思いながら少し後ずさったちょうどその時、チャイムが鳴った。





 ホッとして、足早に佐藤さんから離れた。


 舌打ちの音が聞こえて、本当に怖くて、すぐに席に座る。




「なに言われた?」




 あたしの前の席に座る飛鳥くんが、静かにそう聞いてきた。


 いつものように、真っ直ぐにあたしを見つめながら。


 ……飛鳥くんの目を見たくない。


 あたしを通り越したその先にいる、美咲ちゃんを見つめているように思えるから。




「なにもないよ」




 そう言って目を逸らした。


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