今佐久間先生がどんな顔してるのか、その胸に顔をうずめているあたしには分からない。


 だけどできれば笑っていればいいな、って思う。




「こんなことして笑える奴いないと思うぞ」




 かすかに笑いを含んだその声を聞こえる。


 佐久間先生の言葉に、“現実”とゆう文字を見つけてしまったあたしは、それを隠すように小さく笑った。




 今はただ、目の前にいるこの人に抱きしめられていたかった。




 ……“現実”なんかで目を覚ましたくはなかった。




 明日、あたし達がまた学校で会うことを、今は忘れて、ただ抱きしめられていたい。




 ……抱きしめていたはずなのに、いつの間にか抱きしめられていることに気づいた。


 やっぱりあたしは、佐久間先生の温もりを感じている方がいいなとこっそり思う。




「なあ、清瀬」

「……はい?」

「親御さんが心配してるだろうから、もう帰ったほうがいいな」

「……はい」




 そう言っても、あたしはしばらく動かなかった。


 それは、佐久間先生も同じだった。




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