……でも、祐とは、もう話ができなくても、いいかもしれない。


 嫌われたくないって、そればっかりだったあたしが、今は嫌われても仕方がないと素直に受け入れていることにビックリだ。




「ただいまー」




 ハッとして顔をあげると、もう佐久間先生の家の中に入っていた。


 冷たくなっていた体に温かい空気がふれて、その温かさがじわりと染み込んでいくのを感じた。


 あたしの手を握ったまま、どんどん中に入っていく美波先輩。


 それに黙ってついていきながら、ちょっぴりドキドキしていた。


 ど、どうしよう。

 なにを話せばいいんだろう。


 やっぱり帰った方がよかったかもしれない……っ。




 そんなあたしの考えは、リビングのドアをあけた瞬間に香った、タバコのニオイでかき消された。




「おかえ……。え?」




 タバコを片手に、目をまんまるくしながらあたしを見つめる、佐久間先生。


 部屋中に香るタバコのニオイに、佐久間先生の姿に、ホッとして、なんだか泣きそうになる。




「タバコを止めてあったかい茶をいれなさい。恭子ちゃんの体が冷めちゃってるわ」

「……なんで、清瀬が?」

「いいから、茶!」

「茶ってったって……。俺、全然状況分からないんだけど」




 とりあえずタバコを灰皿に押しつけて、座っていた椅子から立ち上がった佐久間先生。


 お茶をいれようとキッチンに入っていく姿が見えて、思わず引き止めたくなった。


 その衝動を抑えたのは、繋がっている美波先輩の手だった。


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