中に、正直言えば入りたい。


 ……でも、あたしはここにきた理由を十分満足に話せない。


 ためらうあたしを見るに見かねて、美波先輩はあたしに近づいて手を握った。




「ここに来た理由、言いたくないなら言わなくてもいいから。だから中に入ろう?病み上がりなのに、こんな寒いところにずっといちゃダメよ」




 あたしを心配してくれていることが、握った手の温かさから、言葉から、視線から、伝わってくる。


 ……美波先輩は、あたしを誰かに重ね合わせたりしてない、かな?


 飛鳥くんみたいに、あたしを通して違う人を見ていたりなんてことは、してないかな?


 この心配は、確かにあたしに向けられているものだって、思ってもいいかな。




「ね?ほら、行くわよ」

「……はい」




 あたしを引っ張って歩き出した美波先輩。


 後ろ姿を見ると、長い髪が見えて……美咲ちゃんと似たその髪で、美咲ちゃんを思い出した。


 美咲ちゃんを思い出したとゆうことは、必然的に祐をも思い出すことに繋がる。


 ……あたしの部屋から出て行く時の、祐の背中を思い出した。




 “……ごめん。恭子”




 その声がどんな色をしていたか、覚えていない。


 去っていった背中がどんな想いを抱えていたのか、分からない。


 それどころか、祐がいつ部屋から出て行ったのか、よく覚えてはいなかった。


 ……泣くのに必死だったから。


 そう言い訳すれば簡単に済む話なんだろう。


 だけど、冷たい風を浴びて少し頭が冷えた今のあたしは、なんだか罪悪感でいっぱいになった。


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