……迷った。
なんてことはなく、無事にマンションまでたどり着いた。
マンションを見上げたら、怖くなってきた。
……何を話そう。
まずはどうしてここまで来たかってことを言わなきゃ。
でもなんて言えばいいの?
そもそも、あたしはなんでここまで来たの?
……“ただ会いたかったから”なんて理由で納得してくれるはずがない。
「……ばかみたい」
帰ろう。
そう思ったのは、単に怖じ気づいてしまったからで。
本音は、もう、すごく佐久間先生に会いたくて仕方なかったんだけど。
……だって、変な奴って思われたくないし……。
「あれ?もしかして、恭子ちゃん?」
後ろから、聞き覚えがある声がして、驚いてビクッと肩を跳ね上がらせた。
その後振り向くと、そこにはやっぱり、美波先輩がいた。
「目腫れて……、ハッ!まさか、敦に暴行でも受けたのね!」
「え?いや、あの」
「それでやるだけやられて捨てられたんでしょう!?あんのクソ野郎……!!」
「ち、違、違いますっ」
片手に持っているコンビニの袋を今にもぶんぶん振り回しそうな勢いで、勘違いをしている。
慌てて手と首を横に振ると、美波先輩は少し落ち着いた。
「じゃあ、どうしたの?」
……えっと、なんて言えばいいんだろう。
ある意味、佐久間先生に理由を問われるよりも、美波先輩に理由を問われた方が答えづらい。
どうしよう。
なにか言わなきゃ。
でもなにを?
「とりあえず、中に入る?指先、赤くなってるわよ」
あたしの態度を見て、ここにいるより中に入れた方がいいと思ったらしい美波先輩は、その整った綺麗な顔で微笑む。
その顔を見てから、あたしはどうしていいか分からずに下を向いた。
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