そのシンプルさ故に、あたしはもう何も言う気にはならなかった。


 その答えで十分だと思ったから。




「清瀬が泣くとこは、見たくねぇんだよ」




 その優しさが、とても嬉しかった。


 でも、複雑だった。


 だからあたしはうつむいた。






―――― 飛鳥くんがあたしに向ける優しさは、美咲ちゃんに向けるそれとそっくりそのまま同じだと、知ったから。






 あたしを見てくれている人なんて、本当にいるのかな。


 泣き出しそうになる寸前、頭の中に浮かんだのは、あたしに“特別”とゆう言葉を使ってくれた、あの人だった。




 今、どうしようもなく、佐久間先生に会いたい。




 でも、もう家に帰らなきゃ。


 だって祐が家に来るんだから、部屋を掃除しなきゃ。


 ああそうだ。アップルパイのお礼に、途中で何か買っていこう。


 ……そんなことを考えては、佐久間先生に会いたいと強く思った。






 その後、あたしは飛鳥くんにキチンと家に送り届けてもらった。


 あのカフェで持ち帰りできたイチゴタルトを買って帰ってきた。


 飛鳥くんはあたしが家の中に入るまで見送ってくれていた気がする。


 その時、飛鳥くんがどんな顔をしていたのかは、分からない。


 だって、顔なんて見てなかったから。


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