運動部に入ってるわけでもないのに、やけに運動神経がいい飛鳥くんは、すぐにあたしの隣まできた。




「どうしたの?」

「……あのさ、前に俺が言ったこと、覚えてる?」




 前に飛鳥くんが言ったこと?


 しばらくジッと黙って考えてみる。


 ……なんのことだろう。


 いや、飛鳥くんと話したことは覚えてるんだけど、飛鳥くんは今どの話題を指しているのかが分からない。


 首を傾げると、飛鳥くんは小さくため息をはいた。




「祐が、清瀬のこと好きだって話」




 ああっ!あの冗談話のことか。


 なんて、今でもあの話を1ミリも信じていないことが分かるようなことをまず最初に思った。


 そして次に思ったのが、“なんでその話を今更するの?”だった。




「今日、清瀬ん家に祐が行くんだろ?」

「え?なんで知って」

「あの野郎、わざと俺に聞こえるように言いやがったから知ってるんだよ」

「わざと、って、なんで?」




 そう聞くと、飛鳥くんが眉を寄せて、しまった、と言いたげな顔をした。


 なんでそんな顔するのか全然分からなくて、また首を傾げる。




「……とりあえず、あんまり隙を見せるなよ」

「え?なんで?」

「だから、祐は清瀬のことが好きだからだってば」

「え?それって冗談なんじゃ」

「お前、まだ信じてなかったのかよ」

「信じるもなにも……。だって祐は美咲ちゃんと付き合って」

「だからそれは」




 きりがない話が続いていった。


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