危険ナ香リ



 ブレザーがいつのまにか脱がされて、あたしの枕元においてあった。


 それを着てトイレにでも向かおうとしていたら、内ポケットに入れていた懐中時計が、床に落ちたんだ。




「っ、清瀬!?」




 シャッ、と音をたててカーテンが開く。


 こみ上げる吐き気にたえているあたしを見て、佐久間先生が柚乃ちゃんに“袋”と言った声が聞こえた。




「吐きたいなら吐け。その方が楽になるから」




 背中をさすられて、余計に吐き気が増した。


 頭が痛い。


 ズキンズキンと音をたてるにつれて吐き気がこみ上げる。


 考えたいことが、あるのに。




“安藤は、清瀬のことが……”




 その続きは、なに?




「っ、は」




 ぐらぐらして、ひたすら気持ち悪かった。


 考え事がうまくできなくて、もどかしい。


 あまりの気持ち悪さに涙が出てきた中、佐久間先生はずっと“吐け”と言ってきていた。








 ぐったりして、佐久間先生に体を預けるあたしは、先生におぶられていた。


 隣を歩く柚乃ちゃんがあたしのカバンや靴を持ってくれていた。




「……せんせ」

「ん?」

「ごめんなさい……」

「いや、別に平気だ」




 目をつぶると、佐久間先生の背中しか感じなくなる。


 とても大きくて、安心する。




「葛西も送ってくよ」

「そりゃ、どうも」

「清瀬は後ろで横になってろよ」

「……はい」




 あたしは、片手に懐中時計を握っていた。


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