「も、もう、いいですから帰りましょう。お姉ちゃんが怒っちゃいますよ」

「……。よし、帰ろうか」




 たまたま出した“お姉ちゃん”とゆう単語は結構ダメージを食らうらしい。


 素直に雑誌を棚に戻して、帰ろうと動いた佐久間先生を見てそう感じた。


 よし。これからはなにかあったら“お姉ちゃん”って単語を出すことにしよう。


 なんてことをひそかに思いながら、佐久間先生の後ろを歩いた。




 車につくまで、やっぱり距離を詰める勇気がでなかった。


 そんな中で、振り向くこともなくただ前を歩く佐久間先生に、ちょっとだけムカッとしてしまった。


 理不尽だって、自分でも分かってる。


 だけどそう思わずにはいられなくて……。


 こんなあたしだから、好かれ続けられないんだと、関係ないことを持ち込んで、1人落ち込んでいた。




「着いたら起こすから、また寝てていいぞ」




 車に入って最初に言われたのは、そんな言葉だった。


 どうにも寝るなんて気分になれそうにないあたしは、首を横に振った。


 佐久間先生は“そうか”とだけ言って、車を動かした。




「……あの」




 気づいたら、佐久間先生に声をかけていた。




「ん?」

「……えと……」




 そんなものだから、何を言えばいいのか分からなくって、口をもごもごさせる。


 ……なにを話せばいいのか、全然分かんないや。


 そもそも、あたし、なんで声かけちゃったんだろう。




「どうした?やっぱりあの雑誌欲しいとか?」

「えっと……」

「それとも風船?」

「要りませんっ」

「あ。わかった。エロほ」

「違います!!」




 危ない単語を言おうとした佐久間先生の言葉を遮って大きな声を出す。


 それから少しの間、笑ってる佐久間先生の横顔を見つめた。

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