……あの人が祐なわけないでしょ!
だまされた、と思って振り向くと、佐久間先生が口元に手を当てている姿が見えた。
やっぱり、少し顔が赤いように見える。
「あー。頼むからこっち見るな」
「え?なんでですか?」
「……なんでも。ほらいいから、寝てろ。少し遠くまでいくつもりだから、寝てろ」
「そうなんですか?……でも佐久間先生、顔」
「寝てたらあっという間だから寝ろ。寝なきゃこのままホテルに直行するぞ」
そ、それはやだ!
慌ててシートにもたれかかって目をぎゅっとつぶる。
でも、全然眠れる気がしなかった。
……なのにあたしの体は次第に眠りに落ちていく。
車の揺れが気持ちよくて、うとうとし始めてきたと思ったら、知らないうちに、眠りに落ちていた。
そういえばあたし、車でお出かけする時は行きか帰りのどっちかは寝てる気がするなあ、なんてどうでもいいことを考えた覚えだけはあった。
なんだか、今までとか違う揺れを感じて、眠りから引きずり出された。
目を開けると、霞んだ視界の中に、見慣れない風景が見えた。
「起きたか。じゃあ行くぞ」
「……ふえ?」
まだしっかり頭が働かない。
目を擦ろうと手を動かすと、手を捕まえられた。
「化粧してるんだから、擦るなよ」
繋がった手の大きさや固さや温かさを感じて、少しずつ頭が働いていく。
……は!あたしってば、うっかり熟睡してしまってた……!
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