危険ナ香リ



 こんなに怒鳴っておいて、そんなにアッサリ承諾するなんて……。


 お姉ちゃんが分からない……。




「キチンとそのままで返しなさいよロリコン教師!あんなことやこんなことをした形跡があった場合、お前を殺す」

「いや。そもそも付き合ってませんし」

「さっさと行け!そして早く帰ってこい!」

「……すいません。なるべく早く帰ってくるように努めます。それでは」




 あたしの肩を押して、ちょっとだけ早足で車へ向かう佐久間先生。


 どうやら、早めにお姉ちゃんから逃げたいらしい。


 バタンッとドアが閉まると同時に、佐久間先生がため息をはいて車を発進させた。


 ……お姉ちゃんは睨むように見つめてきていた。




「……本当にお前の姉さんか、あれ」




 佐久間先生の横顔は、少しだけ疲れているように見えた。


 ……まあ、さっきのお姉ちゃんの怒鳴り声の数々を思い出せば、そんな顔をする理由が分からなくもないけれど。




「すいません。あたしが“先生”って言っちゃったばっかりに……」

「ん?ああ、それはいい。お前がそう呼ぶのはなんとなく予想してた。……ただ、お前の姉さんがあんな人だとは思わなかっただけだ」




 苦笑いしかできない……。


 そんなあたしをチラリと見てきた佐久間先生は、不意に口元をゆるませた。




「その化粧、」




 ……化粧……。


 っ、ああ!そうだあたし化粧してたんだ!


 や、やばい。気づいたらなんだか恥ずかしくなってきた。


 それに、佐久間先生、絶対バカにするに決まってるから、余計に恥ずかしい!!




「なんだか清瀬じゃないみたいだな。最初見た時、一瞬誰か分からなかった」




 ……あれ。バカにしてこない。


 ジッと佐久間先生の横顔を見つめていると、それに気づいた佐久間先生が困ったように眉を寄せる。


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