危険ナ香リ



 さっきまでうるさかった教室が静かになる。


 中心にいるのは、飛鳥くんと祐だった。




「飛鳥のほうがうるせぇぞ」

「……」

「あー。そうだそこで恭子のことバカにした奴ら。貴様らにはいずれ天罰がくだるであろう。頭上注意だ」




 ギッと周りを睨みつける飛鳥くんと、笑いながら周りを牽制する祐。


 みんなはそんな2人を見たあと、今度はあたしに視線を向けてきた。


 ……こんなに大勢の人に見られるのは苦手なんだよなあ。




「あんた達、過保護すぎるんじゃないの。バッカみたい」

「ほう。この状況でそんな悪態をつくとはなんたる度胸だ。……ところでお前、誰だっけ?」

「な……!?」

「バカだろ祐。そいつはな……伊藤だ」

「佐藤だっつーの!」

「ナイスツッコミだ。伊藤」

「佐藤だっつってんでしょうが!」




 い、いったいどこから漫才になったの。


 戸惑うあたしの周りからは、微かに笑い声が聞こえてきた。


 佐藤さんはそれに気づいて、顔を赤くして2人を睨んだ。




 その時ちょうどよくチャイムが鳴り響いてくれたおかげで、これ以上佐藤さんが怒ることはなかった。


 席についた飛鳥くんが、あたしに視線を送ってきた。


 その時、少し微笑んだように見えたのはあたしの気のせいだろうか。






―――― 一番前の席にいる柚乃ちゃんが、こっちを振り向くことはなかった。






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