危険ナ香リ





「清瀬さんは、好きな人に近づきたいって、思わないのかよ」




 伏せていた目を持ち上げる。


 まだまっすぐ見つめる力強い目と視線が合ってしまって、そのままからめ取られたように剥がせなくなってしまった。




「近づきたいなら近づけばいいだろ。自信とか、外見とか、距離とか、色々考えすぎなんじゃねぇの?それとも近づくのが怖ぇの?」




 ……本当にその通りだった。


 いつもいつも、祐の前にいると考えすぎてしまう。


 可愛く見られたいって思っても自信がなくて、外見の心配ばっかりして、無駄に祐を意識して。


 後悔ばっかりして。


 それでいて“美咲ちゃんがいるから”なんて理由を作って、傷つきたくなくて、幼なじみよりももっと離れた距離を作った。


 あたしは考えすぎているし、臆病者だ。




「……飛鳥くんは、近づくことに怖いって思わないの?」




 そう聞くと、飛鳥くんは少し黙った。




「怖くは、ない。だけど緊張はする」




 ……緊張?


 予想もしていなかった答えに、きょとんとしてしまった。




「今までと違う関係になるから、緊張する。クラスメートから“そうゆう”対象に変わるって、ただ単純に、緊張する」




 少し大きめな声を出した飛鳥くんが、小さく笑ったような気がした。




「恋なんて、難しく考える必要なんかねぇんじゃねぇの?単純に行動しろよ。清瀬」




 飛鳥くんの言葉は、どうしてなのか、あたしの体にじんわりと染み込んでくる。




 そして気づけば、なんだか飛鳥くんとの距離が近づいた気がした。




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