一人の常連客が言う
「氷を少なくして下さい」
カウンターの俺は思う
(量を増やせということか)
節操のない客に節操のない俺
打算的な俺は仕方なく
(また来てくれるなら安いもんだ)
そんな利害で笑顔を造る
別にいいよ
別にいいさ
いつものように氷を減らし
いつもの笑顔でもてなしたある日
いつものように常連客は
いつものように長居するその日
思考の末に達したとある推測
そうか
何故そう思えたのかなんて
どうだっていいと思えた一つの答え
沢山の時間をこの店で過ごすには
溶ける氷が多いんだ……と
この推測が正しいかなんて解らない
この答えを問うなんて俺はしない
ただ
そう思えた自分が嬉しくて
ゆっくりと視線を動かす先に
穏やかな顔で本を読む
いつもの常連客の姿があった
平日の昼下がり
氷は今日も四つだけ
笑夜