王子様はカリスマホスト

頭に血が上った俺と、その俺に腹を立て、食い下がってくる唯菜と。

どっちも引こうとしなかったのがそもそも悪いんだけど。

「保護者でもないのに、お兄ちゃんにそんなこと言われる覚えないよ!」

そう言いながら一歩足を踏み出した唯菜。

「あっ」

千尋の声が聞こえた瞬間だった。

―――カッシャーーーンッ!!!―――

ガラスの砕け散る音と、たちこめるアルコールの匂い。

千尋の顔色がさっと青くなった。

「げ―――ピンドンが―――」

配達に来てた人も青い顔をしてさっさとその場を去り―――

さすがに、唯菜もただ事じゃないことに気付いたようで―――

とんでもないことを言いだした。

「ここで、働くって言ってんの!!」

そんなこと、させられるわけがない。

だいたい、さっきのは俺のせいでもあるのに―――

だけど、俺も意地になっていた。

俺の給料から差し引けば済むことなのに、そうは言いだせなくて。

「そうじゃなかったら―――30万、すぐ稼げるような仕事、自分で探す。キャバクラとかなら、そのくらいすぐ稼げるんでしょ?」

一種脅迫のようなその言葉に親父が折れ―――

結局、唯菜はこの店で働くことになっちまった―――。