王子様はカリスマホスト

翌日、その予感は的中することになる。

昼間、買いたい本があって本屋に行っていた。

帰ると、唯菜のカバンがリビングに置いたままになっているのに、唯菜の姿がなかった。

「唯菜は?」

親父に聞くと、こう答えたのだ。

「ああ、千尋のカラコンを店に持って行ったよ」

「は?なんであいつが?」

「唯菜ちゃんが、行きたいって言ったんだ。なんだか昨日のことで千尋に話があるとか―――」

親父の言葉に、俺の胸が嫌な音を立てた。

―――あの馬鹿、なんだってそんな―――

慌てて買ったばかりの本をそこへ置き、家を出る。

別に、千尋がどうとかいう問題じゃない。

だけど、唯菜をあの店に近づかせたくなかった。

唯菜は俺にとっていとこであり、それ以上の大切な存在でもある。

そう、これは―――

『独占欲』ってやつだ―――。

店の扉を開くと、回廊の下に千尋と唯菜の姿が見えた。

唯菜の髪に触れる千尋の手。

それを見た途端、思わずカッとなる。

「何してる?」

俺の声に、はっとして顔を上げる千尋と唯菜。

俺を見て、すぐに唯菜からパッと離れる千尋。

唯菜は―――その表情が、ちょっと気になった。

まるで今夢から覚めたような。

そんな顔をしていた。

だけどその時の俺は頭に血が上っていて。

唯菜の様子に気を使ってやることができなかった―――。

その時の唯菜はまだ、両親の死を受け入れることができずにいたなんて。

唯菜にとって、今の現実の方が、夢の中の出来事のようなものだったなんて。

この時の俺には、気付いてやることができなかった―――。