「何も、ないです。たぶん―――あたしがお兄ちゃんに嫌われてるだけで」

あたしの言葉に、一樹さんが目を瞬かせる。

「凛斗に?嫌われてる?」

「だって、他の人に対する態度と全然違いますもん。なんでだか知らないけど―――」

「ふーん。でもそれは―――」

そこで、言葉を切る一樹さん。

何かを考えている様子で―――

不思議に思って見ていると、ふと何か思いついたように部屋の時計を見上げた。

「そろそろ休憩時間だな」

「休憩って―――誰の?」

一樹さんはきっと今が休憩時間なんだろう。

それなら誰のことだろうと思って聞くと、一樹さんが意味ありげに微笑む。

「唯菜ちゃん、疲れたんじゃない?」

「え?いえ、まだ大丈夫ですけど―――」

「少し休んだら?そこのソファーで。凛斗が上がるまでまだ時間がかかるし、それまで休んでていいよ」

言いながら、一樹さんは戸棚からマグカップを取りだした。

「一緒にコーヒーでもどう?それとも紅茶の方がいいかな」

「あ―――あたし、入れます」

慌てて立ち上がる。

「そう?悪いね」

テーブルの上のコーヒーメーカーをセットする。

その時。

ふと、後ろに人の気配。

てか、一樹さんしかいないんだけど。

「―――唯菜ちゃんは、かわいいね」

すぐ耳元で囁かれ、ぞくりとする。