「今日は、迷惑かけてごめんなさい」

部屋に入ってきた唯菜は、そう言って俺に頭を下げた。

「別に―――気にするな」

改まって謝られると気恥ずかしくて、俺は目をそらせた。

「―――叔父さんにも、悪いことしちゃって・・・・・」

「親父も、わかってるだろ、お前の気持ちは」

「ん・・・・・なんか、長い間夢を見ていたみたいな気分」

「だろうな。お前、いつもぼーっとしてて居眠りしてるみてえだったし」

俺の言葉に、唯菜がぷっと頬を膨らませる。

「ひどい。そこまでぼーっとしてないもん」

「そうだったか?」

「そうだよ!」

そう言って俺を睨みつけ―――

そして、ふっと微笑んだ。

「お兄ちゃん―――ありがとう」

急に可愛い笑顔でそんなことを言うから、ドキッとする。

「なんだよ、急に」

「お兄ちゃんがいてくれて―――あの家まで迎えに来てくれて、よかった。あたし、自分が1人置いて行かれたみたいに思ってたけど、違うんだね。この家では叔父さんが待っててくれてたし―――心配して探しに来てくれるお兄ちゃんがいる」

「―――別に、俺は・・・・・」

「いつも意地悪ばっかり言うけど、本当は優しいんだよね。あたし、お兄ちゃんに嫌われてるのかと思ってたけど―――」

「は?」

「でも、そうじゃなかった―――。お兄ちゃんて、本当はすごくシャイなんでしょ」

うふふ、とまるでいたずらが成功した子供のように無邪気に笑う唯菜。

上目遣いに俺を見上げるその笑顔が可愛くて。

俺はすぐに反論することができなかった。

「―――じゃ、おやすみなさい。また明日!」

そう言ってくるりと向きを変え、部屋を出て行ってしまう唯菜。

「―――かやろ、反則だろ・・・・・」

その後俺が真っ赤になってそう呟いたことなど、唯菜が知る由もなかった・・・・・。