どんよりとした灰色の雲が、空を覆い尽くし、梅雨が始まろうとしていた頃、[death dealer]の営業の、山下から、呼び出され、あたしは目黒の本社に向かっていた。


「雨、ふりそうだな。傘、もってこなかったよ。」

一人、そうつぶやき足早に、本社に向かった。


最近は、一輝とは、今まで通り・・・。
何も変わらない関係だけど、うまくはいっていた。


「彼女」というかたちに、こだわるわけではないが、やはり、そのかたちを認めてもらえないことには、どうしても心が落ち着かない。




「おつかれさまです。」
 
「お、お疲れ様。お店大丈夫??」

「はい、今日は全員出社なんで。」

山下は、あたしより5歳年上で、最近結婚したばかりの新婚さん。
すらりと背が高く、黒いフレームのおしゃれ眼鏡をかけていて、見た目はかっこいいのだが、どこかぬけているところがある。

「今、清水さんも来るから、ちょっと座ってまってて。」

「はい。」

あたしは、空いているデスクに腰掛けた。

すると、「ごめん、ごめん。」

と、言いながら、清水が小走りに走り寄ってきた。



清水は、あたしより3歳年上で、あたしの店舗のマネージャーをしている。営業ばりばりの女子だ。


「咲ちゃん。早かったね。呼び出しちゃって悪かったね。」

「じゃ、ここじゃなんだから、外でランチでもしながらどう?」

「山さんのおごりだって。やったね。」

「ほんとですか。じゃあ、お言葉に甘えて〜。」

「今日は、俺にまかせてください。」

「ごちになります。」
「ごちになります。」

二人で声を合わせて言ってしまった。