白の世界

地下にあるライブハウスへと入る階段を下りていけば、そこはアルコールの発酵したような匂いと、ものすごい量のたばこの煙。

換気設備など、ろくについておらず、壁に匂いが染みついてしまっている。

壁には、所狭しとバンドのフライヤーやらステッカーが貼ってあり、取れかかっているものがほとんどだ。

不衛生、健康にも絶対良くないであろう、この空間で息をしているときだけ、あたしはほんとの自分に帰れるような錯覚に陥る。

あたしは、このライブハウスの独特の雰囲気が好きだ。

ビールを片手に、お気に入りのバンドを眺めるのか好きだ。

きっと、あたし病んでいるのだろうな。

「咲。始まるよ。FISH WIFE。まじで、かっこいいからね。絶対咲も気に入るよ!」

可奈がひじであたしの脇腹をつついた。



ステージを見上げれば、メンバーたちが、チューニングやらセッティングやらでもくもくと作業をしていた。

一輝は発泡酒の缶を口にくわえながら、チューニングをしていた。
マーシャルの上にも、ステージドリンクのビールが並べられている。

チューニングを合わせている。うつむいた一輝の姿に目を奪われている自分に、少し戸惑いながらも初めて見るFISH WIFEのステージに、テンションが上がっていくのがわかった。