その日は。今年1番寒い夜だった。

12月になり、川崎駅の至る所にイルミネーションや、ツリーが飾られ、キラキラと小さな光をこれでもかと放っていた。


裕典は待ち合わせの20時を15分過ぎた頃に、相変わらず、黒ずくめの格好で現れた。

「ごめん。少し仕事が押しちゃって。寒かったでしょう。」

「ううん、大丈夫だよ。あたしも着いたばかりだから。」

「そっか、それならいいけど。風邪でもひいて、声でなくなったら、販売の仕事できなくなっちゃうし。少し心配した。」

「このくらいじゃ。風邪ひかないよ。」


裕典は、いつだって、普通に暖かいのだ、こうやって。

人の事をいつでも、気遣うことのできる男子なのだ。


「ところで、話しってなに?」

「いや、とりあえずさ、寒いし。どこか行こうよ。」

「って、どうせマックでしょう?」

裕典は笑ってそういうと、さっと歩き出した。あたしもその後をすぐに追いかけた。


裕典との歩く、速度はいつも一緒。歩幅も一緒。きっと、裕典が会わせてくれているのだろうけど。


寒くて、少しふるえたあたしに、手袋を貸してくれた。



「裕典は、どうして、そんなに優しいの?」

「え、別に優しくは、ないよ、俺。」

「だって、だって、ずるいじゃん、そんなの。」

「は?手袋貸してずるいって言われるとは、さすが咲、意味不明。」

「意味不明なのは、裕典じゃん。」

「は?」

「いつも、ずるいじゃん。あたしに優しくしてばっかで、なにも答えてくれなくて。」

「・・・。」

もう、涙で辺りは見えなくなっていた。今までの想い。これからの想い。全部告げてしまわなくてはダメだと想った。