「このね、」

と言って、あたしは頭上の大きなしだれ桜の木を指さして続けた。

「このしだれ桜が、ほんとに綺麗で。花が満開に咲いてる姿もきれいなんだけど、桜の花が池に映って。それが、ほんとに、綺麗なんだよ。」

「・・・。」

「で、散り始めると、池が花びらでピンクに染まって。これが、ほんとに綺麗。花びらが雪みたいに降ってきて。」

返答がないので、一輝の方を見ると、うんうんとうなずいていた。

「って、なんか、あたし桜ごときに語っちゃったよね。ごめん。」

「咲さん、ほんとに桜好きなんだね。じゃあ、次は、この桜、一緒に見に来ようよ。」

「え?」

「そんな綺麗な桜、一人じめするのはずるいですよ。」

「うん、じゃあ約束ね。いつか、見にこようね。二人で。」


すると、突然、一輝はあたしの腕をぐっと引き寄せ、そっと唇をあわせた。

突然のことで、頭が真っ白になっていると、一輝はすぐに唇をはなして、

「すいません。なんか、我慢出来なくなった。」

と、短く低い声で言った。



あたしは、いまだ状況が飲み込めず、呆然としてしまったが、一輝が急に気まずそうに下を向くので、なんとか言葉をつなげた。

「すごい、びっくりした。でも、ありがとう。なんか、今日はいっぱいあったかい、いろんなことが。」

「久しぶりに、あったかいよ、心が。」