理由はわかっている。





凌さんに『店に来るなら私情は慎め!』ってキツく言われてるからだろ?






でもよ……






「さっきの、なに?」





カウンターを拭くフリをして耳元で囁くと、乙葉の体が予想以上に強張った。





多分この様子じゃ、一瞬の出来事だったさっきのアレを、まさか俺が目撃していたなんて思ってなかったんだろう。






「あ、あれはルイ君が勝手に……」



「勝手に? じゃあ、なんで赤くなったんだよ?」






これがありえねぇくらい幼稚な嫉妬心だってことは、自分でもよくわかっている。





わかってるんだけど……






「ルイに惚れたとか?」





口が止まんねぇ。






「そんなわけっ……」






俺のただならぬ雰囲気を感じて、言葉を詰まらせながら顔を上げた乙葉。






その瞳には、ユラユラ不安の色が浮かんでて、思わずここが店であることを忘れそうになってしまった。





触れたい……





抱きしめたい……






「……怜…二…?」






思わず手を伸ばしかけて、おどおどした声にはっとなる。






なにやってんだ俺は……
情けねぇ……






「なんでもない… 今のは忘れてくれ……」






自分の欲望を苦笑してからそう呟いて、バッグへ戻ろうとした時、






「お待たせ」






俺の横から、砂糖がたっぷり入ったミルクティーの甘ったるい匂いと、それに負けず劣らず甘い男の声がした。







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