それって……いつの話なんだろう……?





手を離しながら、凌ちゃんが話し出すのを大人しく待っていると、やがて凌ちゃんは優しい眼差しをあたしに向けた。






「昔な…… まだ杏奈と柾(マサキ)が付き合う前の話なんだけど……」





ママとパパが……?





話の内容がだいぶん横に逸れた気もするけど、かなり興味をそそられた。






だってラブラブ話なら今まで散々ママから聞かされたことがあるけど、付き合う前の話はあまり聞いたことがなかったから。






「柾は、店ではナンバーワンのくせに、一匹狼みたいな奴でさ、俺達には絶対弱味を見せなかった。でもある日、病院から俺に電話が掛かってきたんだ」





“病院から電話”と聞いて、ちょっとドキッとした。





あたしは小さかったから覚えてないけど、パパが事故に遭った日も、パパのケータイを見つけた看護師さんから電話があったんだよね……?






だからママは今だに『病院からの電話がこの世で一番怖い』って言ってる。






でも2人が付き合う前の話だから、今は違う話なんだよね……?






あたしがちょっとドキドキしながら伺うように凌ちゃんを見上げると、凌ちゃんは急に口を押さえて笑いを噛み殺しながら言った。






「最初に『呉林 正男さんをご存知ですか?』って言われた時は、目が点になったけど……ククク……」






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