ケチ、か……





歩きながら、俺は思わず苦笑した。






でも何と言われようが、乙葉に渡すものを他人に言うわけにはいかない。






これはあの人と俺の、人生を賭けた一大勝負のようなものだから。






「よお、怜二」






そう聞こえて横を向くと、今しがた考えていた人物が、事務所からちょうど出て来るところだった。






「お疲れ様です、凌さん」






俺は緊張を隠すため俯き気味に挨拶し返す。






そう、その賭けの相手とは、他ならぬオーナー代理であるこの男−−−−乙葉の親代わりであるコイツだ。






「なんか浮かない顔してんな。
ん?まさか例のモノの予約さえ取れなかったとか?」



「いえ、昨日メールで予約完了の返事は貰えました。
ただ……」





言いかけて、俺ははっとした。






まだ金が足りなくて…、なんてまさかコイツに言えるわけねぇ。






言えば間違いなく勝ち誇った顔で言われるだろう。






“やっぱりお前に大事な乙葉を任せるわけにはいかねぇな”と。






それだけは、本気で阻止しなくては。






「いえ、なんでもありません」






言いかけた言葉を飲み込んで、失礼しますと俺が再び頭を下げて通り過ぎようとした時、






「後で、多分お前にとって願ってもない話をする予定だ。
楽しみにしといてくれ」






意味深な笑みを浮かべてそう言うなり、凌さんは再び事務所へと姿を消した。







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